『イントゥ・ザ・ワイルド』 Into The Wild [映画]
映画の主人公、クリストファー・マッカンドレス(実在の人物)の足跡が本になっているそうです。
ショーン・ペンが本を読んでから、映画化権を獲得するのに10年かかったとか。
その執念と情熱が実を結んだようで、素晴らしい映画が出来上がっています。
今日は、レディースデーで映画が千円で観られる日でした。
仕事も休みだったため、朝から映画館へ。
凄い人でした。千円の威力はスゴイです。ほぼ満席状態でした。
実は、この映画。
評価が高いのに上映している映画館が少なく、上映回数も少ないのです。
TOHOシネマズ梅田では、9:50 と 20:00 の2回。
MOVIX堺では、18:20 と 21:15 の2回。
2時間35分の長い(?)映画なのですが、一気に観れる素晴らしい作品でした。
実は、泣いてしまいました。目が腫れるくらい。切なくて。苦しくて。
主演のエミール・ハーシュ。素晴らしいです。(なんだかレオ似です)
「人生は自分のもの」
その通りです。
ですが、自分一人のものでもないと思うのです。一人で生きているのではないからです。
だから、悲しい気持ちになる、そして、苦しい気持ちになるのだと思います。
クリスが出会った人の気持ちになって、クリスを気遣い、
クリスの家族の気持ちになって、クリスを心配する。
さらには、クリスの気持ちになるから… 気持ちが溢れて、涙が溢れて来るのです。
そういう映像を、魔法のように、押し付けることなく観る者の心に沁み入らせる。
そこに、大自然や人間模様が迫って来るわけですから… 脱帽です。お見事です。
クリスの見たアラスカの空。眩しい光。
親だからこそ許せないこと、その子どもだからこそ傷ついたこと。
まだ見ぬ自分と出会うため…
自分の足で歩きだし、自分の意思で親の元に帰る日を夢みる。
愛しているゆえに、愛されたいゆえに疎んじた家族。
幸せに背を向けるように家族に背を向け、厳しい北へ、アラスカへ、荒野へと向かう旅。
クリスがスーパートランプを経てクリスを超えたクリストファーになるための通過儀礼の旅。
以下、ネタバレ注意!
笑顔で親のもとに帰るとき、帰る場所のある幸せ、待っている人のいる幸せに気付くんですよね。
許すとは、受け入れること。
それが愛なのだと、幸せなのだと… 気付く。
ですが、もう、戻れない。
荒野の罠にハマって抜けられなくなってしまったから。
荒野のワナに嵌(はま)らないための智恵。
それが人間が築いた文明という名の智恵だったはずなのです。
ところが、智恵に溺れ退廃の気配をみせている現実の社会。
お金や規則、世間体や偽善、欺瞞、暴力、酒、タバコ…
文明を超えるための旅、回帰のための旅に出たはずのクリスでしたが、
荒野のワナに嵌り、誤食で餓死という最悪の最期を迎えてしまったのです。
お父さんのウィリアム・ハート。
自分を神だと豪語していた自信も吹き飛び、立っておれずに地に這いつくばります。
お母さんのマーシャ・ゲイ・ハーデン。
喪失感と後悔、悲しみに魂を抜かれたように立ちすくみます。
妹のジェナ・マローン。
兄への尊敬と理解、非難と失望を超えて、死を受け入れます。
なんという壮絶で静かな最期でしょう。
許せるとき、心に平和が訪れ、神(自然を超えた大きな存在)がともにあるのだと…
神を信じなかったクルスが、皆に神のご加護を願う。それが… 切なく、哀しい。
クリスと出会って人生が変っていく人々。
自分を見つめ、変ろうとする姿がなかなかの見せ場で示唆に富んでいます。
触媒のようなクリスをエミール・ハーシュが、綺麗な目で演じています。
アカデミー賞。助演男優賞ノミネートのハル・ホルブルックの演技は演技を超えて(?)見事です。
(クリスを愛するゆえの気遣いには胸が詰まりました)
他に編集賞もノミネートしているようですが、
賞の数に関係なく素晴らしい作品だと思いました。
蛇足
問題のない家族も人間も存在しません。
問題と向き合い、どう乗り越えるか。または、どう受け入れるか。
それは、人によって千差万別です。
クリスはクリスとして、真摯に向き合ったのだと思います。
クリスの死は悲しいことですが、だからといって、クリスの旅を否定することは出来ないように思います。
経験しないと分からないこと、経験しても分からないこと、たくさんあります。
どうしようもなく愚かで愛しい存在。それが人間であると思います。
だからこそ、神に縋らざるをえない気持ちになったのだと思います。
コメント 0